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温泉礼賛 コラム

 


温泉礼賛 コラム

日本人の自然と温泉観

APRIL 30,2020

 

By 石川理夫  ISHIKAWA Michio

 

      「日本人は、山や巨岩、森や巨樹、川や水、自然界のあらゆるものに「カミ(神・精霊)」が宿るとみなして自然信仰を育んできた」。「温泉を守護する「ユ(湯=温泉)のカミ」(温泉神)への温泉信仰が広まった」

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  日本はアジア太平洋の小さな島国とよく思われている。日本の面積は37万8000㎢。旧ソ連邦を除くヨーロッパ諸国で日本より面積が広いのはフランス、スペイン、スウェーデンの3か国のみ。決して小さな国ではない。その国土の61%は山地だ。

森林地帯もイギリスの面積より広い約25万㎢、国土の3分の2を占める。日本は山と森と水の豊かな国である。

 

 また、環太平洋造山帯に位置するため、有数の火山国である。火山は脅威だが、富士山のような秀麗な景観をもたらした。もうひとつの恵みが温泉である。温泉の泉源(湯元)数はなんと約2万7000。宿泊施設がある温泉地数は約3000。ヨーロッパでいうとフランスの温泉地数は約100。イタリアで200か所以上。トルコやアメリカ合衆国、中国をはるかにしのいで日本は世界一の温泉国と言えよう。

 

 

 

 

 

 こうした風土から日本人は、山や巨岩、森や巨樹、川や水、自然界のあらゆるものに「カミ(神・精霊)」が宿るとみなして自然信仰を育んできた。温泉は大地から湧き出る現象自体が超常的で畏怖・畏敬の対象であった。そして温泉を利用するうち、体は温まって肌もきれいになり、心地よさだけでなく傷や痛みの回復が早いといった治癒効果も経験的につかむ。温泉の恵みへの感謝、慈しみの念も高まり、温泉を守護する「ユ(湯=温泉)のカミ」(温泉神)への温泉信仰が広まった。

 

 

 

 

 温泉地に「ユのカミ」が祀(まつ)られていた事例としては、奈良時代の733年に完成した地誌(『出雲国風土記』)に玉造温泉の「玉作湯社」の名が記されているのが早い。都が京都に遷(うつ)った平安時代の927年にできた法令集(『延喜式』)にも「ユのカミ」を祀る温泉神社名を10社ほど記載している。250年ほど前の江戸時代に東北地方北部や北海道を巡った菅江真澄という学者は、多くの温泉地に祀られていた「ユのカミ」について絵図を交えて詳細に記録している。

 

 

ⒸISHIKAWA Michio 那須湯本温泉神社             ⒸISHIKAWA Michio 岩倉温泉図絵

 

 

じつはこうした自然崇拝や温泉信仰は日本人だけではない。たとえば古代ヨーロッパの先住民ケルト人もそうであった。生命を育み豊穣さをもたらす大地や自然をケルト人は崇拝し、なかでも森やオークの樹、フランスのルピュイに見るような岩山、水や温泉を含む湧泉を神々が住む聖所として崇めていた。温泉を含む湧泉にはそれぞれ女神が居て、疾病を治してくれると信じ、奉納品も捧げていた。自然や温泉への信仰はもはや素朴で原始的な信仰とみなされがちだ。

 

でも、自然や温泉を大切にして守るというあり方は、自然環境や温泉資源に過大な負荷を与えない。「持続可能な発展目標(SDGs)」が社会全体で求められている今日、持続可能な資源利用につながるものとしても見直されて良い。

 

何より日本の歴史ある温泉地では、伝統的な木造建造物の温泉神社や仏教で温泉を守護する温泉寺が温泉街のゆかしい景観をかたちづくり、訪れる人を魅了するのである。

 

 ⒸISHIKAWA Michio  星生温泉と久住山

 

 





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